誰も気づいてくれないブザー
お風呂に入っていた時のことです。
給湯器のスイッチで「追い炊き」を押したつもりが、間違えて「呼び出し」のスイッチを押してしまいました。ところが、誰かが来るかと思っていたところ誰も来ません。
3世代で暮らしていた頃に、このスイッチのブザーがよく鳴っていました。「石鹸がない!」「タオルがない!」と父が母を呼んでいました。夫は孫と一緒に風呂に入ると「孫が上がるから」とブザーを鳴らしていました。考えてみれば、鳴らすのはもっぱら男たちでした。
でも「私がお風呂の中で急に具合が悪くなっても、このスイッチは役に立たないのだなぁ」。そんなことを考えていたら、何年か前に来店した女性のお客様の話を思い出しました。
新学期が始まったある日のこと。遠目にはランドセルが歩いているように見える、小柄で可愛いらしい男の子に声をかけたそうです。そのお客様にとってはひ孫くらいの新1年生。「かわいいね」の声掛けにびっくりしたのでしょう。いきなり防犯ブザーを鳴らし逃げ出したとのことです。
びっくりしたのは、そのお客様も一緒です。「今の時代、知らない子供には声を掛けてはいけなかったのね」と反省しきりでした。さらに、「ブザーの音で人が集まってこなくて良かった」と、胸をなでおろしていました。
誤解があったとはいえ、このときの防犯ブザー自体はしっかりと役目を果たしたのでした。でも、私が仮に防犯ブザーを鳴らしたとして、本当に気づいてもらえるのでしょうか。いえ、おそらく気づいてもらえません。お風呂のブザーもそうですが、鳴らしても誰も気づいてくれないのは寂しいですよね。子供たちが防犯ブザーを鳴らしたら、その音にはぜひ気づいてあげたいものです。
人を見たら…
戦後に生まれた私は、緊迫感の薄い平和な時代に子育てができたと思います。「人を見たら泥棒と思え」。そんな物騒な言葉を子供に言って聞かせたことはなかったと思います。
翻って今はどうでしょう。特殊詐欺、強盗など、凶悪な犯罪が日常化しています。私たちが自宅で犯罪に巻き込まれないようにするためには、やはり「見知らぬ人が玄関に近づいてきたら、安易にドアを開かない」ことが重要なのです。つまり、「人を見たら泥棒と思え」を徹底するしかないのだと思います。
以前の日本ではこんなことは考えられませんでした。実に寂しい世の中になったものです。とはいえ、新聞やニュースで連日のように自宅にいる高齢者を狙った凶悪犯罪が報じられているのを見るにつけ、「現代社会では徹底的に用心することに越したことはないのだろうな」とも思う私です。